リチウムイオンバッテリチャージャICベースの最大電力点追従システム
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IoTが特徴の時代において、より多くのコネクティビティの実現とは、バッテリ駆動で常時通信を行う屋外機器が増えることを意味します。特に、ソーラーパネルから電力を供給される屋外機器の数が増えています。ソーラーパネルを用いた屋外設計において、チャージャは最大電力点追従 (MPPT: maximum power point tracking) に対応している必要があります。本稿では、屋外のソーラー監視カメラや屋外照明などのアプリケーションに適した、リチウムイオン電池を搭載したソーラーパネル用チャージャの設計のヒントを説明します (図1を参照)。
図1: 屋外防犯カメラや屋外照明用ソーラーパネルのアプリケーション
システム概要
このリファレンスデザインは、MC96F1206コントローラ (8051 MCUの低コスト版) を搭載したMPSのMP2731をベースに開発されています。中小規模のソーラー充電ソリューションに適しています。従来のMPPTシステムと比較して、MP2731ベースのシステムは、入力電圧接続スイッチ、ADC、および電圧 / 電流検出回路を集積しているため、システムコストが大幅に削減されます。システム設計では、MPPTの「山登り (perturb-and-observe, P&O)」アルゴリズムを使用して、98%以上の追従精度を実現しています。
図2に、リファレンスデザインのシステム図を示します。システムの主要なブロックには、MP2731、MC96F1206 MCU、バッテリ、およびシステム負荷が含まれます。

図2: システムブロック図
MP2731の機能として、9V入力の5Wシステムで最大93%の効率、98%のMPPT精度、小さな25mm x 25mmコア回路領域、JEITAおよびプログラム可能な安全タイマを含む堅牢な給電保護が組み込まれた完全集積型電源スイッチ、および柔軟なシステムパラメータ設定とおステータスレポートのためのI2Cインタフェースが含まれます。(図3を参照)。

図3: MPPT制御システムのPCB
システム設計
MPPT理論
ソーラーパネルからの出力電力は、放射照度レベル、パネルの動作電圧と電流、負荷など、いくつかの要因によって決まります。ソーラーパネルがシステムに最適な電力を出力する最大電力点が存在します (図4を参照)。P&Oやインクリメンタルコンダクタンス方式などの最大電力点追従手法を使用して、放射照度条件が変化しているときにソーラーパネルをMPPTで能動的に動作させ続けます。

図4: ソーラーパネルのP-VとIV曲線
電力ベースのP&O MPPTアルゴリズムでは、PVパネルの電力から電圧への導関数dP/dVが追従パラメータとして使用されます。式 (1) を使用してMPP (maximum power point) に達したときを計算します。
$$\frac{dP_{in}}{dV{in}} = 0$$ハードウェア実装
通常、DC/DCコンバータは、システム内のMPPを最適化するために使用されます。高度に統合されたスイッチングチャージャ (このリファレンスデザインではMPSのMP2731) は、PVパネルとバッテリ負荷の間に接続されています。

図5: MP2731の機能ブロック
逆流防止FETであるQ1は、パネルが低放射照度にあるときに、バッテリ負荷からPVパネルへの経路を遮断するために使用されます。ICの入力電圧 / 電流と、出力電圧 / 電流は、8ビットADCを介してサンプリングされます。このICはI2C通信に対応しているため、デジタル化された電流と電圧の情報を外部MCUに簡単に通信できます。
ソフトウェアの実装
P&O MPPTアルゴリズムは、ABOV Semiconductor社の20ピン、8ビットMC96F1206 MCUに実装されています。MP2731と通信するために、MCUのI2Cぺリフェラルがアクティブになります。

図6: システムレベルのソフトウェアフローチャート
注 : IOFFSETを更新する前に、MP2731のSYSピンに接続されている他のICの電源をオフにして、IOFFSETが正しく校正されていることを確認してください。
図6は、システムレベルのソフトウェアフローを示しています。VIN (入力電圧) が不足電圧しきい値を下回ると、MCUはスリープモードになります。VINが回復すると、MCUをウェイクアップするために割り込み (INT) を送信します。次に、MCUはMP2731レジスタを読み取り、それらのレジスタを初期化します (表1を参照)。
レジスタアドレス | 値 (16進数) | 値 (2進数) | 詳細 |
0x00 | 0x7F | 0111 1111 | 入力電流制限を 3.25A (最大) に設定 |
0x02 | 0xDC | 1101 1100 | 自動入力電流最適化を無効 |
0x03 | 0x50 | 0101 0000 | ADC連続変換を有効 |
0x08 | 0x84 | 1000 0100 | ターミネーションを有効、WTDとセーフティタイムを無効 |
0x0B | 0xC0 | 1100 0000 | USB検出を無効 |
表1: オペレーションレジスタ
入力電流制限を最大値に設定することで、パネル電圧は入力電圧制限ループのみによって制御されます。入力電圧制限ループ基準を調整することで、PVパネルの電圧を調整できます。MP2731の初期化後、ADCの初期値を読み出し、給電を可能にします。
VIN_STATが1に等しいかどうかを確認します。1に等しくない場合は、VIN_REGを1単位増やしてから、VIN_STATの前の値に戻します。VIN_REGがその上限に達したとき、VIN_STATはまだ1に等しくありません。給電電流は徐々に減少し、以前のVIN_STATで設定された値に戻ります。
VIN_REGセットが制限に達すると、ICCは最小に設定されます。VIN_STATがまだ1に等しくない場合、MCUはスリープモードに入り、MP2731の給電機能は、INT割り込み関数がMCUをウェイクアップするまで無効になります。
部分遮光中のローカルMPPの処理
PVパネルが部分的に覆われていて、従来のP&O MPPTアルゴリズムを使用してローカルMPPを追跡できる場合、MCUは入力電圧フラグが変化するたびにスキャンを開始します。MCUは、MP2731の入力レギュレーション電圧基準を、パネルの開放電圧 (VOC) の50%から80%の VOCまで100mVのステップで調整して、最適な電力点をスキャンします。
最初のスキャンの後、PVパネルは最大電力点で動作するように設定されます。負荷と放射照度の変化する条件の下で最適点に追従続けるために、P&OアルゴリズムはMCUで256msごとに実行されます (図7を参照)。
図7: P&O MPPTアルゴリズム
実験結果
図8は、(8V、500mA) MPPを備えたPVパネルのMPPTプロセスを示しています。t0の前に、無負荷で、PVパネルは開回路電圧で12Vを出力します。MP2731とMCUの電源投入後、PVパネルは、MCUによって構成されたプリセットの6V入力電圧で動作します。MPPのために、MCUはt0からt2までスキャンします。
t1でMPPが検出されますが、スキャンアルゴリズムは、電力がt2で記録されたピーク電力の85%に低下するまで入力電圧を流し続けます。t2の後、MCUはパネル電圧をスキャンされたピーク電源電圧に設定し、リアルタイムP&Oアルゴリズムをアクティブにします。
図9は、リチウムイオン電池の全充電動作を示しています。t0からt1まで、システムの電源がオンになり、MPPがスキャンされます。t1からt2まで、バッテリ給電電流が定電流から低い値に変化するにつれて、バッテリはCCステージとCVステージを通過します。バッテリがほぼ完全に充電されると、PVパネルの電圧は再びオープンパネルの電圧まで上昇し始めます。完全に充電されるとバッテリの負荷電流が減少するため、軽負荷状態となります。

図8: 電源投入から定常状態までのPVパネルのMPPTプロセス

図9: 充電サイクル中のMPPTの動作
低抵抗の集積MOSFETにより、MP2731ベースのMPPTシステムは、さまざまな条件下で高い効率も実現します (図10を参照)。
図10: パネルの効率データ (5V、9V、12V)
(PVパネルは5V程度)
(PVパネルは8V程度)
図11: 部分的な遮光下のトラッキングパフォーマンス
図11は、部分的な遮光下でのPVパネルの追従パフォーマンスを示しています。t0で部分的な遮光条件が発生すると、PVパネルの電圧と電流が減少します。t1で、部分的な遮光が除去されると、MPPTはPVパネルの電圧をMPPレベルに戻します。
(PVパネルは5V程度)
(PVパネルは8V程度)
図12: 自然光環境下でのトラッキングパーフォーマンス
図12は、自然な屋外太陽光の下でのPVパネルの追従性能を示しています。太陽放射照度は上下に変動し、PVパネルの出力電流に影響を与えます。ただし、MPPパネル電圧は通常、放射照度レベル (この例では約8V) の影響を受けません。図12は、効果的なMPPTアルゴリズムが、変化する放射照度の下でMPPを8Vで追跡できることを示しています。
結論
MP2731リチウムイオンバッテリチャージャICは、BOMから個別の電圧および電流検出回路を排除することにより、屋外IoTシステムのコストを効果的に削減します。高度に集積された低RDS(ON)により、コンパクトなPCB面積で高効率のシステムが可能になります。今後の製品開発の計画には、高電力、高電圧アプリケーションでの設計への対応、システム静止電力消費のさらなる削減、およびマルチパネルシステム向けのソリューションの開発が含まれます。
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