モータ駆動用MOSFETドライバの使用


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はじめに

モータ駆動システムでは、ゲートドライバまたは「プリドライバ」ICがモータを駆動するのに必要な大電流を供給するために、Nチャネル・パワーMOSFETと一緒によく使用されます。ドライバIC、MOSFET、そして場合によっては関連する受動素子を選択する際には、多くの設計上の考慮が必要です。多くの場合、このプロセスはあまり理解されておらず、実装は最適化されていません。

本稿ではプリドライバ / パワーMOSFET回路の部品を選択する簡単な方法と、その結果得られるシステム性能について説明します。

モータによる起動

DCモータ駆動を設計するには、それがブラシモータ用であるか三相ブラシレスモータ用であるかにかかわらず、モータ特性によって駆動の設計内容が決まります。駆動設計の定義で役立つ2つの主な要因は、モータの動作電圧と電流要件です。

ただし、これらのパラメータは一見してわかるほど単純なものではありません。モータには通常、電圧定格と電流定格が与えられていますが、実際の動作では、これらの定格と動作値が異なる場合があります。モータ速度は印加電圧によって決まります。モータが必要とする電流は、モータに印加されるトルクに依存します。したがって、駆動はモータのすべての仕様に従い設計する必要がある場合とない場合があります。

通常、モータのデータシートに記載されている速度定数とトルク定数は、特定の用途に必要な電圧と電流を推定するために使用可能です。駆動は、モータから望ましい速度を得るために必要な電圧と同程度の電圧を、少なくとも供給しなければならなりませんが、供給電圧は、多くの場合、システムで利用可能な電圧によって決定されます。最大電流要件は、通常、機械的負荷をもつモータを起動するのに必要なトルクにより設定されます。

MOSFETの選択

パワーMOSFETは、モータに必要な電源電圧と最大電流以上の定格のものを選択してください。いくらかのマージンも必要です。

一般的に、MOSFETのドレイン - ソース間電圧定格 (VDS) は、供給電圧より少なくとも20%高くなければなりません。場合によっては、特に大電流、大きなトルクステップ、および制御されていない電源を有するシステムにおいては、この必要なマージンは、電源電圧の2倍にもなることもあります。

MOSFETの電流定格は、もちろん、モータが必要とするピーク電流を供給するのに十分な高さが必要ですが、通常は熱に関しての考慮が優先されます。MOSFETは電力を消失し、ドレイン - ソース間の抵抗RDS(ON)で熱を発生します。周囲温度およびMOSFETに利用可能なヒートシンクを含む熱的制約により、消失する電力量には制限があります。この最大許容電力損失により、RDS (ON) 値に基づいたMOSFETが選択されます。

必要な電圧定格およびRDS(ON)が決定されたら、全ゲート電荷 (QG) を考慮することが重要です。ゲート電荷は、MOSFETをオンオフするためにどれだけの電荷が必要かを示す尺度です。QGが低いMOSFETの方が駆動は簡単になります。高いQGよりも、より低いゲート駆動電流のほうが、より速いスイッチングが可能です。

ゲート駆動電流と立ち上がり / 立ち下がり時間

パワーMOSFETのゲートは、ゲートとソース端子間の非線形容量として見なすことができます。ゲートはDC電流を通しませんが、MOSFETをオンオフするためにゲート容量を充放電する電流が必要です。ゲートに供給される電流の量によって、MOSFETを完全にオンにするまでの時間が決定されます。同様に、電流がゲートから引き出されるとき、その電流の量がMOSFETのターンオフ時間を設定します。

ゲートを駆動するために何が必要であるかを理解するには、MOSFETのスイッチングスピードをどれくらいにするか知る必要があります。(速い立ち上がり、および立ち下がり時間を必要とする) 低いスイッチング損失と、(遅い立ち上がり、および立ち下がり時間を必要とする) 低いEMIとの間で設計上の兼ね合いがあります。加えて、PWM周波数および必要な最小・最大デューティサイクルは、必要なスイッチング速度に時間制限をもたらします。たとえば、20kHzのPWM周波数では、1%のデューティサイクルで500nsの長さのパルス発生が必要です。これには、数百ナノ秒以下の立ち上がりおよび立ち下がり時間が必要になります。

必要な立ち上がり / 立ち下がり時間を決定した後、必要なゲート駆動電流を計算します。これは、QG / tとして推定することができます。ここで、QGは全ゲート電荷であり、tは希望する立ち上がり / 立ち下がり時間です。

これは、立ち上がり / 立ち下がり時間全体にわたって駆動される必要がある電流の量であることにご注意ください。実際には、ほとんどのゲートドライバは定電流ドライバではないので、ゲート駆動電流は通常この時間の間、多少変化します。

ゲートに定電流を供給する場合、ゲートの電圧は直線的な傾きではなく、MOSFETがスイッチングしている間にプラトーに達します (図1参照)。これは「ミラープラトー」と呼ばれ、ゲートのドレイン容量によって引き起こされます。ドレインが遷移しているとき、この静電容量は充電するために電流を利用するので、ゲート - ソース容量の充電は遅くなります。

ゲートを充電するために供給される電流が低いほど、遷移が完了するまでに要する時間が長くなります。

図1 : 1A定電流ゲート駆動 (100nC-赤=ゲート、紫=ドレイン、200ns/div)

図2 : 12Ω直列抵抗付き12Vゲート駆動 (100nC-赤=ゲート、紫=ドレイン、200ns/div)

図2に12Ωの直列抵抗を持つ12V定電圧ゲート駆動を使用した場合の波形を示します。プラトーはまだ存在し、ゲートが12Vに達するのに時間がかかりますが、ドレインでのスイッチング時間はほとんど同じです。

プリドライバICの選択

必要最小限のゲート駆動電流が分かったら、この電流に対応できるゲートドライバ (プリドライバ) ICを選択します。さまざまなチャンネル数、ゲート駆動電流能力、供給電圧範囲などをもった、さまざまな部品が用意されています。一部の部品では、電流検出増幅器や保護回路などの追加の統合機能も提供されています。

プリドライバICは、MPSを含む電力管理用の製品を製造する多くの半導体供給業者から入手可能です。DCモータ駆動用に設計されたプリドライバICには、単相100Vデバイスと同様に、3チャンネル60Vおよび100Vファミリなど、さまざまな種類があります。

一部のプリドライバICは、リニアレギュレータ、チャージポンプ、および/またはブートストラップコンデンサを使用して、モータ主電源から内部で必要なゲート駆動電圧を生成します。別のゲート駆動電源を必要とするものもあります。100%のデューティサイクルで動作させるには (出力を長時間ハイにして) ハイサイドのゲートを長時間ONにする内部チャージポンプを備えたプリドライバを選択します。ハイサイドに対してブートストラップのみに依存するプリドライバは、時間が経つとブートストラップ・コンデンサがリークドするので、ハイサイドのMOSFETをオンに保つことは限られた時間しかできません。

ゲートドライバは、少なくとも、上述した必要な立ち上がり、および立ち下がり時間を達成するために必要な電流量を供給する必要がありますが、より多くの電流能力を有するドライバを使用することもできます。

一部のドライバICには、部品内部のゲート駆動量を変化させることにより、立ち上がり時間と立ち下がり時間を調整する方法 (「スルーレート調整」とも呼ばれる) があります。スルーレート調整機能が内蔵されていない部品を使用する場合、ゲートドライバ出力とMOSFETゲート間に抵抗を挿入することができます。これにより、ゲート電流が制限され、立ち上がりおよび立ち下がり時間が遅くなります。

ダイオードを追加することで、独立した立ち上がり時間と立ち下がり時間を得ることができます (図3参照)

図3 : ダイオード追加のための図

図4 : ゲート波形と出力波形

これは、ハーフブリッジ構成の1つのFETを、反対側のFETがオンになる前に完全にオフにするためによく行われ、デッドタイムを保証します。図4は、ローサイドゲート (GLA) がダイオードを通して放電されると急速に低下しますが、ハイサイドゲート (GHA) は抵抗によってゆっくりと充電されることを示しています。その結果、出力における遅い立ち上がり時間 (SHA) が、ハイサイドMOSFETのターンオンによって制御されます。

ゲートは非線形静電容量を有し、ドライバは通常、真の電圧源または電流源ではないので (通常は線形領域で動作するFET)、特定の立ち上がりまたは立ち下がり時間を達成するために必要な抵抗を正確に計算することは難しい場合があります。通常は、実験またはシミュレーションによって正しい値を導き出すのがベストな方法です。まず、ゲート駆動電流がゲート駆動電圧 (通常は12V) を直列抵抗で割った値に等しいと仮定し、そこから作業を開始します。この計算には、ゲートドライバの出力抵抗も必ず含めましょう。

結論

本稿では、プリドライバICとパワーMOSFETを用いたモータ駆動に最適な部品を選択するための実用的な情報を提供しました。次にモータドライブ設計を行う場合、適切なICと関連部品の選択において本稿がみなさんのお役に立つことを願っております。

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