LLCの動作を理解する (パートI): 電源スイッチと共振タンク

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はじめに

LLC共振コンバータは、最新の電源設計によって設定された厳しい性能要件を満たすことができるため、パワーエレクトロニクスで注目されています。LLCは、共振コンバータトポロジーの非常に大きなファミリの1つであり、そのすべてが共振タンクをベースにしています。共振タンクは、共振周波数と呼ばれる特定の周波数で発振するインダクタとコンデンサで構成される回路です。

より高いスイッチング周波数 (fSW) を可能にし、スイッチング損失を低減するため、これらのスイッチモードDC/DCパワーコンバータは、高電力、高効率のアプリケーションでよく使用されます。LLC共振コンバータは、繊細なシステム (高性能の家庭用電化製品など) を使用する電源アプリケーション、または電力を必要とする操作 (電気自動車の充電など) に最適です。

LLCコンバータは、電源スイッチ、共振タンク、トランス、およびダイオード整流器の4つのブロックで構成されています (図1参照)。まず、MOSFETのパワースイッチが入力DC電圧を高周波矩形波に変換します。次に、この矩形波は共振タンクに入ります。これにより、矩形波の高調波が除去され、基本周波数の正弦波が出力されます。正弦波は、アプリケーションに応じて電圧を増やしたり、減らしたりする高周波トランスを介してコンバータの二次側に伝達されます。最後に、ダイオード整流器は正弦波を安定したDC出力に変換します。

簡略化したLLCコンバータ回路図

図1: 簡略化したLLCコンバータ回路図

非常に高い電力でも高効率を維持するLLCコンバータの能力は、その共振特性によります。LLCコンバータの共振特性により、一次側と二次側の両方でソフトスイッチングが可能になり、スイッチング損失が減少して効率が向上します。

さらに、LLCトポロジーは基板スペースを節約します。LLCトポロジーには出力インダクタがないため、すべてのインダクタを単一の磁気構造に簡単に統合して、面積とコストを節約できます。回路のすべての誘導素子を同じ構造に配置すると、3つよりも1つの構造の方が、シールドしやすく安価なため、電磁適合性が向上します。

電源スイッチ

電源スイッチは、フルブリッジまたはハーフブリッジのトポロジーで実装可能で、それぞれに固有の出力波形があります (図2参照)。

電源スイッチのトポロジー

図2: 電源スイッチのトポロジー

これらのトポロジーの主な違いは、フルブリッジトポロジーでは、DCオフセットがなく、振幅が入力電圧 (VIN) に等しい矩形波が生成されることです。ハーフブリッジトポロジーは、(VIN / 2) でオフセットされた矩形波を発するため、フルブリッジ波の半分の振幅を持っています。

各トポロジーには、独自の長所と短所があります。フルブリッジトポロジーでは、より多くのトランジスタが必要になるため、実装コストが高くなります。さらに、追加されたトランジスタは、直列抵抗 (RDS(ON)) を増加させ、これにより伝導損失を増加させる可能性があります。一方、フルブリッジの実装では、必要なトランスの巻数比 (N) が半分になり、トランスの銅損が最小限に抑えられます。

ハーフブリッジトポロジーは、実装する費用効果が高く、コンデンサの両端のRMS電流を約15%削減するという、さらなる利点がありますが、スイッチング損失も増加します。

これらの兼ね合いを考慮して、電力が1kW未満のアプリケーションにはハーフブリッジ電源スイッチトポロジーを使用し、より高い電力のアプリケーションにはフルブリッジトポロジーを使用することを推奨します。

共振タンク

共振タンクは共振コンデンサ (CR) と2つの共振インダクタ (LR) で構成されています。コンデンサとトランスは直列、そして磁化インダクタ (LM) は並列になっています。タンクの役割は、矩形波の高調波を除去し、基本的なスイッチング周波数の正弦波をトランスの入力に出力することです。

一次基準負荷をもつLLCタンクの概略図

図3: 一次基準負荷をもつLLCタンクの概略図

共振タンクのゲインは、周波数と二次側にかかる負荷によって異なります (図4参照)。設計者は、すべての負荷の値に対してタンクのゲインが1を超えるように設計することによって、コンバータが広い範囲の負荷にわたって効率的に動作するように、これらのパラメータを調整する必要があります。

図4: 異なる負荷での共振ゲイン応答

LLCコンバータは、共振タンクのデュアルインダクタにより、広い動作範囲と高効率を実現します。これがどのように機能するかを理解するために、インダクタに応じて、重負荷と軽負荷に対するタンクの応答を検討します。

図5は、共振タンクが共振コンデンサと磁化インダクタのみで構成されている場合の、さまざまな負荷に対する共振タンクのゲインを示しています。軽負荷では、共振タンクのゲインに明確なピークがあります。ただし、重負荷のゲインにはピークがなく、代わりに応答が悪く、非常に高い周波数でのみユニティゲインを実現します。

並列インダクタを備えたLCタンクのゲイン応答と回路図

図5: 並列インダクタを備えたLCタンクのゲイン応答と回路図

共振タンクが共振インダクタ (LR) と直列の共振コンデンサのみで構成される場合は、動作が異なります。ゲインは1を超えませんが、最も重い負荷の場合、タンクは並列インダクタの場合よりもはるかに速くユニティゲインに達します。

直列インダクタを備えたLCタンクのゲイン応答と回路図

図6: 直列インダクタを備えたLCタンクのゲイン応答と回路図

共振タンクに両方のインダクタを実装することにより、結果として得られる周波数ゲイン応答により、コンバータははるかに広い範囲の負荷に適切に応答できるようになります。さらに、負荷範囲全体の安定した制御が可能になります (図4参照)。結果として得られるLLCタンクには、それぞれ式 (1) および式 (2) で計算される2つの共振周波数 (fRとfM) を有します。

$$f_{R} = \frac {1}{2π \sqrt {L_{R} \times C_{R}}}$$ $$f_{M} = \frac {1}{2π \sqrt {L_{M}+L_{R} \times C_{R}}}$$

タンクのゲイン応答は、負荷、正規化されたインダクタ、および正規化された周波数の3つのパラメータに依存します。

負荷は、出力に接続された負荷に依存する品質係数 (Q) で表されます。ただし、共振タンクの出力と負荷の間にトランスと整流器があるため、負荷値の使用は正確ではありません (図1参照)。したがって、RACと呼ばれる負荷の一次側基準値を使用する必要があります。RACおよびQは、それぞれ式 (3) および式 (4) で推定できます。

$$R_{AC} = \frac {8xn^2}{π} \times R_{O}$$ $$Q = \frac {\sqrt {L_{R}/C_{R}}}{R_{AC}}$$

正規化された周波数 (fN) は、MOSFETのスイッチング周波数 (fSW) とタンクの共振周波数 (fR) の比として定義されます。fNは、式 (5) で計算できます。

$$f_{N} = \frac {f_{SW}}{f_{R}}$$

正規化されたインダクタンス (LN) は、共振インダクタと磁化インダクタの関係として表され、式 (6) で推定できます。

$$L_{N} = \frac {L_{M}}{L_{R}}$$

これらのパラメータを使用して、コンバータのゲイン応答を式 (7) で計算できます。

$$M_{G}(Q,Ln,Fn) = \frac {V_{OUT[AC]}}{V_{IN[AC]}} = \frac {f_{N}^2 \times (L_{N}-1)}{(f_{N}^2-1)^2 + f_{N}^2 x(f_{N}^2 - 1) \times (L_{N}-1)^2 \times Q^2}$$

これらの計算は、第1調和解析 (FHA) を使用して行われます。これは、LLCが共振周波数 (fR) 内で動作すると仮定しているため適用できます。フーリエ解析を適用すると、共振タンクの入力は、異なる振幅と周波数をもつ複数の正弦波から成る矩形波です。共振タンクは、基本波fSWとは異なる周波数のすべての正弦波をフィルタで除去するので、基本的な正弦波以外のすべての波を無視できます。これにより、分析が大幅に簡素化されます。

ソフトスイッチング

LLCコンバータの人気のある機能の1つに、ソフトスイッチング機能があります。

ソフトスイッチングは、回路内の電圧だけでなく、電流の自然な増減を調整することによってスイッチング損失を減らし、電子スイッチが最も効率的なポイントでオン・オフすることを目的にしています。電流がほぼゼロのときにスイッチングが発生する場合、これはゼロ電流スイッチング (ZCS) と呼ばれます。低電圧でスイッチングが発生する場合、これはゼロ電圧スイッチング (ZVS) と呼ばれます。LLCコンバータは、共振の特性により、ZVSとZCSの両方を実行できます。

図7は、LLCコンバータの4つの基本的な動作モードを示しています。モード1とモード3は、すでに説明した標準のLLC動作を示しています。モード1では、電流はソースから共振タンクとトランスの二次側に供給されます (Q1はオン、Q2はオフ)。モード3では、共振タンクに蓄えられた残りの電力は、モード1とは逆方向に電流が流れるようにトランスの二次側に伝達されます (Q1がオフ、Q2がオン)。ZVSは、モード2とモード4の両方のスイッチがオフのときに発生します。これらの期間中、電流はトランジスタのボディダイオード (モード2のQ2、またはモード4のQ1など) を流れます。これは、フリーホイーリングとも呼ばれます。

LLC動作モードの回路図

図7: LLC動作モードの回路図

フリーホイーリングにより、トランジスタの両端に電圧 (VDS) が発生し、ボディダイオードの小さな電圧降下によって制限され、ゼロに近い値になるまで降下します。これは両方のゲート信号が低いときに発生するため、回路がモード2からモード3またはモード4からモード1に移行するまで、トランジスタの両端の電圧はゼロに近くなり、スイッチング損失が最小限に抑えられます。

LLC動作モード信号

図8: LLC動作モード信号

結論

LLCコンバータを設計するときは、LLC共振タンクがどのように動作するかを理解することが重要です。タンクの共振特性により、LLCコンバータは広い負荷と電力幅にわたって効率的で安定した動作を維持できるため、非常に人気があります。しかし、タンクのゲイン応答は負荷やコンバータの動作点などの多数のパラメータに依存するため、この共振は、設計者に回路パラメータを設計する際に非常に注意するように強制しています (式 (7) 参照)。

MPS LLC Designerなどの設計ツールは、 LLC設計を高速化するのに理想的で、ユーザはさまざまなゲインと周波数を迅速に繰り返し、設計に必要な部品の値を計算できます。

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