不安定なスイッチング電源の原因を突き止め、安定させるためのクイックヒント

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はじめに

不安定な電源は受動部品からの可聴ノイズ、スイッチング周波数の揺らぎ、負荷変換時の出力電圧の過大な発振、半導体スイッチの動作不良などの重大なシステム上の問題を起しかねません。不安定性には種々の理由がありますが、調整されていない補償ネットワークはスイッチング電源の即応性の問題に大きな影響を与えます。この論説では、不安定の原因がネットワークの補償の調整不良によるものかどうかを明かにし、電源の不安定度を手短に改善するヒントを与えます。

遷移時の反応: 電源の安定性の測定

スイッチング電源の遷移時の性能は2つの主な判定基準、帯域幅 (BW) と位相マージン (PM) で特徴づけられます。広い帯域幅は速い遷移時反応となります。一方、大きな位相マージンは良好な安定性を意味します。すなわち、遷移時の反応を受入れられるレベルにするには、広い帯域幅と大きな位相マージンを必要とします。しかし、帯域幅と位相マージンの間にはトレードオフがあります。帯域幅を広げる技法は一般に位相マージンを減らし、その逆もまた言えます。

図1は広い帯域幅、小さな位相マージンでの代表的な電源の遷移時の反応を示します。負荷の遷移があった際に、出力電圧は調整された電圧に落ち着くまでに数回の振動を経ます。出力電圧における負荷遷移時の振動の回数は、電源の安定性の良い測度となります。振動の数は直接移送マージンに関連しており、つまり電源の安定性に影響します。

図1: 代表的な電源の遷移時の反応

スイッチングレギュレータの補償ネットワーク

スイッチングレギュレータによく使われる補償ネットワークには一般に2つのタイプ、タイプIIとタイプIIIがあります。タイプIIの補償ネットワークは、ゼロポールセットを用いて望ましい帯域幅と位相マージンを達成します。さらにレギュレータの遷移反応を改善するためには、タイプIIIの補償ネットワークが使われます。タイプIIIの補償ネットワークは、追加のゼロポールセットを加え、より広い帯域幅とまたはよりよい位相マージンを獲得します。図2にタイプIIIの補償ネットワーク回路図を示します。

図2: タイプIII 補償ネットワーク

この寄稿文の目標は、不安定な電源を安定化するために用いられる技法がいかに簡単なものであるかを示すことです。なお、提案する技法は不安定の原因が補償ネットワークの調整不足である場合にのみ効果的であることに注意してください。

以下に記述する2つのタイプのスイッチングレギュレータは、補償ネットワークの実装の観点からのものです。この2つのタイプは、外付けの補償ネットワークを持ったスイッチングレギュレータと補償ネットワークを内部に持つスイッチングレギュレータです。図3はこれらの2つの電源タイプの代表的な応用回路を例示したものです。

a

a) 内部補償ネットワーク

b

b) 外部補償ネットワーク

図3: 電源における2つのタイプの補償ネットワーク

不安定電源を安定化するために利用できる追加部品

既に述べたように、スイッチングレギュレータにおける即応性は負荷の変化に対する遷移反応を見ることで検証できます。

図1は、負荷の遷移が起こった時に出力電圧上で数回の振動を示す不安定電源の例を示しています。図4では図1の電源についてボード線図を示しています。この例では、帯域幅は65kHz、一方位位相マージンはわずか16°です。許容できる遷移反応を持つ電源では、スイッチング周波数の10%を超えない帯域幅と60°以上の位相マージンを推奨します。図1の電源のスイッチング周波数は400kHzでした。これは許容できる帯域幅を40kHZに制限します。

ノイズに影響を受けやすい応用では、帯域幅をさらにスイッチング周波数の5%以下に制限する必要があります。

図4: 図1の電源についてのボード線図

図4はマグニチュードカーブ (赤) が既に下降を始めた時に位相カーブ (青) が0dBに到達しているのを示しています。適正な位相マージンと良好な安定性のためには、マグニチュードカーブが下降を始める前に位相カーブが0dBとなる必要があります。

以下に示す技法は、帯域幅を減らして安定性を改善できるかを見る方法を示しながら、読者が不安定なスイッチング電源を速やかに直せるようにするものです。帯域幅を削減するにつれて安定性が改善されるなら、不安定の原因が補償ネットワークの調整不良であったことが確認できます。

帯域幅の削減は2つの点で安定性を改善します。第1に、それは制御ループを遅くします。遅い目の制御ループは鋭いスパイクそしてまたは出力の振動を予防あるいは制限します。第2に、帯域幅の削減は位相マージンを増加させ、それが安定性を改善することになります。

外部補償ネットワーク付きのレギュレータ

外部補償ネットワークを持った電源では、外部補償ネットワークはCOMPピンに配置されます。この方法では、出力での振動が補償ネットワークの調整不足で起こっているかを見る手短かな方法は、大きな容量のコンデンサをCOMPピンに置くことです。COMPピンの大きなコンデンサは低周波の極をもたらし、それは帯域幅を大きく制限します。このコンデンサが大きいほど、帯域幅は狭くなります。図5はCOMPピンに大きなコンデンサを追加した効果を示しています。COMPピンのコンデンサの代表的な容量は100nFから1μFの間と考えられます。

図5: COMPピンに大きなコンデンサを追加した効果

内部補償ネットワーク付きのレギュレータ

内部補償ネットワークを持ったレギュレータではCOMPピンは用意されていません。したがって、外部追加部品を使って帯域幅を削減し安定性を改善する必要があります。内部補償ネットワークを持ったスイッチングレギュレータの帯域幅制限にもっとも有効な方法は、フィードバックピンと直列になっている抵抗 (FB直列抵抗と呼ばれます) を用いることです。

図6はFB直列抵抗を追加した効果を示しています。この抵抗はマグニチュードカーブを下げますが位相カーブへの影響はわずかです。したがって、これは帯域幅を制限し電源の安定性を増すのに果的です。FB直列抵抗が大きいほど、帯域幅をより大きく削減します。FB直列抵抗の代表値は5kΩから100kΩの範囲です。

不安定電源のトラブル対策に対して提案した技法の検証

この寄稿文では2つの製品を取り上げます。MPM3530はモMPSの外部補償ネットワークを用いる55V/3Aの降圧電源モジュールです。図8(a)はMPM3530の代表的なアプリケーション回路図です。図8(b)は内部補償ネットワークをもったMPSの36V / 2A同期整流降圧レギュレータMPQ4420を示しています。

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a) MPM3530の代表的なアプリケーション回路図

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b) MPQ4420の代表的なアプリケーション回路図

図8: 代表的なアプリケーション回路図

COMPピンに大きなコンデンサを追加した効果を示すために、MPM3530を考えます。この例では、補償ネットワーク用の部品はこのレギュレータが不安定になるように選ばれています。これは図8(a)においてR3を2.53kΩから16kΩに増加することで行われます。図9はMPM3530の過渡応答とそのボード線図を示しています。出力の上での多数の振動は安定性が低いことを表しています。ボード線上でただの2°という小さい位相マージンで安定性の低さを確認できます。

図9: 未調整の補償ネットワークが付いたMPM3530での過渡応答とボード線図

図10はいったん1μFのコンデンサがCOMPピンに追加された時に過渡応答に起こることを示しています。出力における多数の振動は抑え込まれ、安定性が改善されたことを意味しています。そのボード線図は予想通り帯域幅が大きく縮小されたことを示しています。帯域幅の縮小の結果として位位相マージンの大きな増加があり、安全性が改善されています。

しかし、安定性の改良は、遅い応答の犠牲の上に達成されていて、出力電圧の設定時間は、300μsから2msと相当に増加しました。また、負荷変化への遅い応答のために、電圧のアンダーシュートの最大値が、図9では15mVだったのに比較して、700mVに増加しました。

図10: MPM3530のCOMPピンへの大きなコンデンサの安定性改良効果

図8(b)で示すように、MPQ4420などの内部補償ネットワークを持ったレギュレータではCOMPピンは用意されていません。図11はFB直列抵抗を持たないMPQ4420 (例えば図8(a)におけるR3は0Ωに設定されます) の過渡応答を示します。出力の上での多数の振動は安定性が低いことを表しています。ボード線図を見ると、帯域幅は72kHz、一方位位相マージンはわずか11°です。MPQ4420の既定のスイッチング周波数は410kHzなので、帯域幅は41kHz以下に制限しなければなりません。

図11: FB直列抵抗を持たないMPQ4420での過渡応答とボード線図

図12は、R3を0Ωから51kΩに変えたとき、いかに過渡応答における振動を減少させるかを示しています。期待したように、FB直列抵抗を導入すると振幅カーブが下がり、それによって帯域幅が狭くなりそして位相マージンが高くなります。このシナリオで、新しい帯域幅は21kHZそして位相マージンは11°から43.5°に改善しています。

図12: FB直列抵抗を持ったMPQ4420での過渡応答とボード線図

さらなる電源過渡応答の改善

図12に示された出力における高い安定性と少ない振動にも関わらず、位相マージンはまだ目標の60°より以下です。さらに帯域幅の削減は位相マージンに追加の上昇を与えず、さらに応答時間を低下させています。すでに学んだように、帯域幅の低下はまた電圧のアンダーシュートの大きさを増加させます。

追加部品によって、帯域幅を犠牲にしてレギュレータを遅くすることなく位相マージンを改善できます。この解決策はフィードフォワード・コンデンサ(CFF)と言います。

これはタイプIIの内部補償ネットワークであり、位相の拡大を与えません。位相の拡大が必要であれば、CFFをフィードバックネットワークに加えます(図13参照)。CFFはもう1つのゼロを補償ネットワークに加え、位相マージンを帯域幅を減少させずに位位相マージンを増大させることができます。事実、コンデンサが適正に選択されると、位相マ―ジンは改善され、帯域幅もより速い過渡応答を達成するよう増加できます。

図13: フィードフォワード・コンデンサを持ったMPQ4420の回路図

図14は19kΩのFB直列抵抗と220pFのCFFを備えたMPQ4420の過渡応答とボード線図を示しています。ここで示されているように帯域幅はちょうどスイッチング周波数の10%に当たる40kHzに向上し、位位相マージンは目標の60°以上になっています。

図14: FB直列抵抗とCFFを持ったMPQ4420の過渡応答

図14は出力電圧にただ1つのアンダーシュートがあり、このデバイスが良好な安定性を提供することを確認できます。応答時間もまた約60μsに短縮され、アンダーシュート電圧はわずか8mVに削減されました。

結論

この寄稿文では、スイッチング電源における診断の即応性問題を解くいくつかのクイックヒントを調べました。外部部品ネットワークを使ってレギュレータを安定させる方法と、外部補償ネットワークを使用するレギュレータの個別テクニックを紹介しました。提案した技法の効果の有効性はそれらをMPSのMPM3530およびMPQ4420に適用して検証しました。また、当寄稿文ではいかにフィードフォワード・コンデンサがさらにスイッチングレギュレータの過渡応答を改善できるかを提示しました。

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