車載用SoCのパワーツリー設計

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はじめに

先進運転支援システム (ADAS) とインフォテインメント システム・オン・チップ (SoC) はますます高い演算能力を提供しており、その結果、より高い電力需要が生じることになります。SoCは、数百アンペア (A) から数mAの幅の電流で、10を超える異なる電源レールが必要な場合があります。これらのアプリケーションに最適なパワーツリーを作成することは、簡単な作業ではありません。本稿では、車載用SoCに最適な電源アーキテクチャを設計する方法について説明します。特に、プリレギュレータの設計に焦点を当てます。

車載用バッテリの課題

自動車環境の12Vバッテリのバスは、自動車の動作中に発生する一時的な過電圧 (OV) や低電圧 (UV) 状態など、さまざまなストレス要因にさらされる可能性があります。このため、PCの12Vバスで動作するように設計されたほとんどのDC/DC集積回路 (IC) は、車載用アプリケーションにはあまり適していません。低電圧DC/DC IC用にフィールドを準備するには、プリレギュレータが必要です。このプリレギュレータは、コアVRと他のコンバータが動作するクリーンな電源バス (通常は5Vまたは3.3V) を生成する必要があります。

システム・オン・チップ (SoC) の電力要件

開発の初期段階では、SoCの電力要件は通常、各レールの電圧と電流の定格、およびシステムがサポートするために準備が必要であると予想される過渡電流を提供します。この情報を、ハードウェア設計を開始するための理解しやすい高レベルの図に変換するのは、電源設計者の仕事です。表1に、SoCの電力要件の例を示します。

表1 : SoCの電力要件

レール名 電圧 (V) 電流 (C) 過渡負荷 (A) スルーレート (A/µs) 電圧許容差 (1) (%)
VDD_CORE 0.85 60 40 40 3
1V8_GPIO 1.8 5 2.5 2.5 5
3V3_GPIO 3.3 5 2.5 2.5 5
1V8_analog 1.8 1.5 0.75 0.75 5 低ノイズのDC/DCコンバータから
DDR_VDD 1.05 6 3 3 3
DDR_VDDQ 0.6 6 3 3 5
PCIe 0.85 1.5 0.75 0.75 5 低ノイズのDC/DCコンバータから
MIPI 0.75 1.5 0.75 0.75 5 低ノイズのDC/DCコンバータから

注 :
1) 電圧許容誤差には、コンバータのDC精度、負荷過渡応答、およびIRドロップが含まれます。


図1は、SoCの電力要件で形成できるパワーツリーを示します。

図1 : パワーツリー

各コンバータの出力電力を約50Wに制限するために、2つのプリレギュレータがありますのでご注意ください。2つのプリレギュレータを実装することで、設計者はICの選択に多くの選択肢を得ることができます。

プリレギュレータ・トポロジーの選択

プリレギュレータを設計する際の最初のステップは、そのトポロジーを決定することです。必要な動作条件に応じて、このレギュレータは降圧コンバータ、昇降圧コンバータ、または降圧コンバータと昇圧コンバータの組み合わせにすることができます。

システムがウォームクランク事象の間に動作をする必要があるが、より厳しいコールドクランク事象の間に一時的にオフになる可能性がある場合は、コストと効率を改善するために降圧コンバータ・トポロジーを選択することをお勧めします。ウォームクランク事象の間に回路で、5Vを超える電圧が必要な場合は、昇圧後のコンバータを追加して、回路に必要な電圧が確実に供給されるようにすることができます。そうではなく、回路が厳しいコールドクランクの事象下でも動作する必要がある場合は、昇降圧コンバータを選択して、システムがすべての潜在的な条件下で動作することを保証します。昇降圧コンバータは通常、単純な降圧コンバータよりも高価で効率が悪いのでご注意ください。この設計例では、降圧コンバータが選択されました。

バス電圧の設定

トポロジーを選択したら、設計者はバス電圧を考慮する必要があります。このバス電圧 (通常は3.3Vまたは5V) が、すべての下流のコンバータに供給されます。ほとんどの低電流DC/DC ICは最大5.5Vで動作できるため、どちらの電圧でも機能します。ただし、コントローラとIntelli-PhaseTMコンバータを備えたソリューションは、5V以上のバスで動作する必要があります。

直接3.3Vに降圧すると、必要なコンバータの数を削減できる場合があるため、バス電圧は通常、コストを最適化するために選択されます。ただし、電圧を5Vに変換する場合よりも高い出力電流が必要になります。

各プリレギュレータの電力定格は、効率係数が適用された場合の下流のストリームコンバータの出力電力の合計です。簡略化のために、すべてのコンバータで89%の効率だと想定します。プリレギュレータ1の電力 (PPRE-REG1) は式 (1) で計算できます :

$$P_{PRE-REG1} = \frac {V \times I}{η} = \frac {0.85 \times 60}{0.89} = 57.3W$$

プリレギュレータ2の電力 (PPRE-REG2) は式 (2) で計算できます :

$$P_{PRE-REG2} = \frac {\sum_{1} ^{7}V_n \times l_n} {η} = \frac {1.8 \times 5+3.3 \times 5+1.8 \times 1.5+0.85 \times 1.5+0.75 \times 1.5+1.05 \times 6+0.6 \times 6}{0.89} = 45.5W$$

次に、各プリレギュレータの出力電流を計算します。プリレギュレータ1の出力電流 (IPRE-REG1_5V) は式 (3) で計算します :

$$I_{PRE-REG1\_5V} = \frac {P}{V} = \frac {57.3}{5} = 11.5A$$

プリレギュレータ2の場合、3.3Vバス電圧オプションの両方を使用して出力電流 (IPRE-REG2_3.3V) の推定で、式 (4) を使用します :

$$I_{PRE-REG2\_3.3V} = \frac {P}{V} = \frac {45.5}{3.3} = 13.8A$$

プリレギュレータ2の場合、3.3Vバス電圧オプションの両方を使用して出力電流 (IPRE-REG2_5V) の推定で、式 (5) を使用します :

$$I_{PRE-REG2\_5} = \frac {P}{V} = \frac {45.5}{5} = 9.1A$$

このシステムの電力定格は高いため、5Vバス電圧は3.3Vバス電圧よりも低い出力電流を可能にします。設計者がより複雑にならないDC/DCコンバータを選択できるように、5Vバス電圧を選択することをお勧めします。

ICの選択

トポロジーと出力負荷が決定したら、設計者はプリレギュレータICを選択する必要があります。このICは、ロードダンプ状態で42Vの入力電圧をサポートし、ウォームクランク状態で6Vまで動作できる必要があります。さらに、出力負荷容量が11.5A以上であるか、2つの部品がその電流まで並列に動作できる必要があります。電力レベルが同様であるため、両方のプリレギュレータで同じICを使用できます。

MPQ4360-AEC1は電流定格が6Aの同期降圧コンバータで、多相構成で動作することができ、12Aの出力電流を実現できます。インターリーブ方式の多相動作により、電磁放射が減少し、部品の小型化が可能になります。これにより、コントローラとディスクリートFETを使用するソリューションと比較して、プリント基板のレイアウトが小さくなるという利点があります。また、このデバイスの自己消費電流 (Iq) は22µAと非常に低く、車載用アプリケーションに最適です。図2は、並列で動作する2つのMPQ4360-AEC1を示しています。

図2 : 二相 MPQ4360-AEC1回路図

図3は、二相動作のMPQ4360-AEC1のPCBレイアウトの例を示しています。おおよそのソリューション領域は750mm2です。

図3 : 二相 MPQ4360-AEC1デバイスのPCBレイアウト

システム保護

バッテリ・バスには、危険な逆電源電圧がかかる可能性があります。この状況でシステムが保護されていない場合、すべてのデバイスが損傷する可能性があります。逆電流を防ぐために、通常は入力ラインにダイオードが加えられます。ただし、ダイオードには順方向電圧 (VF) があります。通常動作時にダイオードに電流が流れると、VF電力損失を生じます。

設計されたSoCシステムの定格電力は100Wを超えています。12Vバッテリの場合、これは8Aを超える入力電流に相当します。8Aは単純なダイオードには大きすぎます。そして0.3VのVFをもつショットキー・ダイオードを使う場合でも、電力損失は2.4Wを超えます。標準的な代替手段は、PチャネルMOSFETを使用して逆電流を阻止することですが、これらのMOSFETでは、高周波のAC電流から十分な時間内にICを保護できない場合があります。

MPQ5850-AEC1は、システムを逆電流から保護できる理想ダイオード・コントローラです。MPQ5850-AEC1は、強力なゲート駆動能力を備えたNチャネルMOSFETを制御して、逆電流をすばやく阻止します (図4参照)。これにより、最小限の電力損失で逆電流保護が提供されます。

図4 : MPQ5850-AEC1 理想ダイオード・コントローラ

プリレギュレータと保護デバイスを選択すると、選択した部品を反映したパワーツリーに更新できます (図5参照)。

図5 : 最終プリレギュレータと保護電源ツリー

結論

ADASシステムに適したプリレギュレータを選択するのは簡単なことではありません。多相トポロジーで出力を並列化できるICを使用すると、この設計がより簡単になります。MPQ4360-AEC1MPQ5850-AEC1を使用したスケーラブルなソリューションにより、各レールは小さな領域で必要な出力電流を実現し、BOMコストを削減できます。

その他、車載の過渡現象について詳しくは、以下の寄稿文をご参照ください。

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