自動車のクランク状態を維持するための設計上の考慮事項

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はじめに

12Vバッテリーシステムを使用した最近の自動車は多くの過渡状態にさらされています。一部の過渡現象には高電圧パルスを伴うものがあれば、他には過渡現象は低電圧条件下にある場合もあります。クランク過渡現象とは、車のエンジンがスタートし、車のバッテリーが短時間で通常の動作範囲よりも数ボルト低下するときに発生する低電圧状態のことです。

近年、クランク状態時での車両の通常動作を維持するための要件がさらに厳しくなっており、より堅牢な電源ソリューションの必要性が明らかになりました。クランク波形、および特定の電源レールから供給する必要がある負荷によっては、これらの要件を満たすシステムの設計が設計者にとって困難になる場合があります。本稿では、自動車の幅広いクランク過渡現象に耐えることができる堅牢なDC/DCコンバータについて説明します。

極端なスタート条件に対応した設計

12Vの車載システム向けに設計する場合は、極端なスタート条件を考慮する必要があります (図1参照)。ISO 16750-2、ISO 7637-2、Test Pulse4などの規格は、コールドクランク状態、ウォームクランク状態、および同様の波形に関連するものなど、車両に対する多数のスタートプロファイルを定義しています。

図1 : 代表的なカーエレクトロニクスシステム

図2は、ISO規格で定義されたスタートプロファイルを使用したコールドクランク波形の例を示しています。

図2 : コールドクランクに対するスタートプロファイル例

車両のスタート動作が最も困難になるのは、車のバッテリーとエンジンの両方が長期間にわたって低温にさらされる寒い天候時に発生する可能性があります。このシナリオでは、車両のエンジンを始動するために大量のバッテリー電流が必要になります。「コールドクランク」状態とは、スターターが冷えたエンジンをオンにするために高電流を流した後、バッテリー電圧 (VBATT) が非常に低くなることを言います。コールドクランク条件下では、10ms~50msの間、VBATTが3Vまたは4.5Vまで (車両の電気システムによる) 低下する場合があります。このイベント中に、電源が入力VBATTを超える特定の電圧を調整する必要がある場合、問題が生じる可能性があります。たとえば、5Vまたは10V電源は降圧できないため、コールドクランク状態時に、VBATTから昇圧する必要があります。

ウォームクランク状態の間、VBATTも低下しますが、通常、低下はコールドクランクほど深刻ではありません。一般に、ウォームクランク波形は6Vまたは7Vまで低下する可能性があり、コールドクランクほど長くは続きません。これは、エンジンとバッテリーの両方が比較的暖かい温度にあるため、スターターが車両をスタートするために必要なバッテリー電流が少なくて済むからです。したがって、消費される電流が少なくなるため、バッテリーの全体的な電圧降下が低くなります。

最近の車両では、燃費を向上させるためにスタート / ストップ (またはストップ / スタート) に対応するのが一般的です。スタート / ストップは、エンジンが暖まった運転中に発生するウォームクランク状態です。ブレーキペダルを踏んだ状態で車両が完全に停止すると、エンジンが停止します。ブレーキペダルを放すとエンジンが再始動します。スタート / ストップ中、車両内の重要なモジュールは性能を変えずに動作し続ける必要があります。

ディスプレイパネルに電力と制御を提供するディスプレイ制御モジュール (DCM) の例を考えてみましょう (図3参照)。

図3 : ディスプレイ制御モジュール

ディスプレイパネルは、センタースタック ディスプレイ、後部座席ディスプレイ、または最近の車両で見られるその他のディスプレイである可能性があります。電力の観点から見ると、DCMは車両の走行中、常に安定化された12V電源をディスプレイパネルに供給する必要があります。ディスプレイパネルがちらついたり、映像が消えたり、機能が停止したりすることがないように、スタート / ストップ中にも12Vを供給する必要があります。通常のバッテリー状態では、VBATTは 13Vと14Vの間にあります。ただし、ウォームクランクのスタート / ストップ中に、VBATTは6Vまで低下します。これらのさまざまな条件下で一定の12Vを供給するには、VBATTが非常に低くなった場合にステップアップ (昇圧) するだけではなく、より高いVBATTをステップダウン (降圧) できるDC/DCコンバータを選択する必要があります。これを達成するには、昇降圧DC/DCコンバータがこれらの要件を満たす優れた候補になります。

クランク状態時における降圧 / 昇圧コンバータの詳細

MPQ8875A-AEC1は、4スイッチの降昇圧コンバータで自動車のクランク波形要件を満たすことができます。これは、2.2V~36V (最大42Vロードダンプ) の幅広い入力電圧 (VIN) 範囲に対応しており、4つのパワーMOSFETが統合されています。図4は、MPQ8875A-AEC1が3Aの負荷で12Vの出力を提供するように構成されている場合のアプリケーション回路を示しています。VINが出力電圧 (VOUT) を超えた場合、デバイスは降圧モードで動作します。VIN < VOUTの場合、デバイスは昇圧モードで動作します。VINがVOUTとほぼ等しい場合、デバイスは昇降圧モードで動作し、すべてのスイッチが転流して12Vを供給します。すべてのモードで、12Vのレギュレーションを提供するために出力に必要なインダクタは1つだけです。

図4 : さまざまなVIN状態に12Vを供給するMPQ8875A

DCMはMPQ8875A-AEC1を使用して設計され、12Vシステム用のISO 16750-2、レベルIVで定義されたスタートプロファイルを使用して、スタート / ストップ (またはウォームクランク) がテストされました。図5は、VINの波形 (青色)、VOUT (マゼンタ)、およびインダクタ電流 (IL、黄色)でこの過渡現象中の動作を示しています。VINは電源コネクタへの測定されたVBATT入力であり、スタート / ストップ条件が適用されます。VOUTは12Vの測定された安定化出力であり、ILは、測定されたインダクタ電流を示しています。このテストの負荷電流は3Aです。

図5 : スタート / ストップ過渡状態時のMPQ8875AのVIN、VOUTとIL波形

ウォームクランク状態の間、VINは急速に6Vまで低下し、約15msの間そのままです。次に、オルタネータのリップルを表す低周波の正弦波形が数秒間発生します。その後、VINは 公称電圧約13.5Vに戻ります。この状態の間、MPQ8875A-AEC1は、ドロップアウトなしで12V出力を調整し続けます。ILはVINの降下に応じて急激に増加し、4.9Aのピーク電流が発生し、約15msの間続きます。その後、ILは約10秒間 3.3Aと4.5Aの間で変動します。最後に、VINが公称のVBATT電圧に達すると、ILは 公称値3Aに低下します。

適切な電流定格を持つインダクタ (L1) を選択することは、非常に重要です。適切な動作にはウォームクランク時のピーク電流だけでなく、コールドクランク状態時のピーク電流にも適合する必要があるからです。ソフトな飽和のインダクタは優れた選択肢であり、クランク波形の初期電圧降下の間のピーク電流と正弦波部分のピークを処理できる必要があります。この状況では、最小飽和定格が5A~6Aの範囲にあるインダクタが最適なスタートとなります。このテスト中にインダクタ電流の動作を測定することは、インダクタのサイズが適切であることを確認するための重要なステップです。このステップを見逃さないようにしましょう。

結論

本稿では、車載用12Vバッテリーの過渡状態に合わせて設計する際の課題のいくつかを紹介しました。コールドクランクやウォームクランクなど、極端なエンジンスタート条件に合わせた設計の考慮事項について検討しました。MPQ8875A-AEC1は、昇降圧回路を設計する例として使用され、安定した調整されたVOUTを提供しながら、代表的なクランキング波形に耐えることができました。特に、MOSFETとインダクタの電流定格は重要で、とりわけVINが一時的に通常の状態よりも大幅に低下した場合に重要です。回路設計と検証の一環として、すべての入力条件に対して回路が適切に動作することを検証するために、VIN、VOUT、インダクタ電流を常に測定する必要があります。

その他の車載用昇降圧、および昇圧コンバータソリューションは、MPSウェブサイトでご覧ください。

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