非絶縁コンバータの電磁障害 (EMI) に対する解析とモデリング方法 (パートI)

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はじめに
電子システムを設計する場合、デバイスが電磁両立性 (EMC) 規格を満たしていることを確認することが重要です。これは、立法機関によって定められた要件だけでなく、電磁障害 (EMI) が不安定性や望ましくない動作を引き起こす可能性があるためでもあります。EMI試験は通常、設計の最終段階で行われるため、EMIをモデル化して分析できることは、設計者が設計の最初の段階から設計プロセス全体を通じてEMIを効果的に最適化し、遅延や予想しないコストの発生を回避するのに役立ちます。
EMIは、伝導EMIと放射EMIの2つの経路を介して電子回路内で伝播します。伝導EMIは物理的に接触するケーブルまたは他の導体を介して影響を受けるデバイスに伝達されますが、放射EMIのノイズは (物理的接触がない) オープンスペースを介して伝達されます。
これらの伝播経路は異なるため、本稿のシリーズではパートIで伝導EMIについて説明し、次にパートIIで放射EMIについて説明します。
伝導EMI
伝導EMIには、差動モード (DM) とコモン モード (CM) の2つの標準タイプがあります。DMノイズは2つの回線の間に流れます。CMノイズは、電流が変位電流の形でグランドに流れる場合に発生し、機器の浮遊容量を通じてグランドに流れ、その後、電力網に戻ります。
EMIノイズを測定する場合、ノイズセパレータを使用してEMIノイズがDMノイズであるかCMノイズであるかを判断できます (図1参照)。

図1 : 伝導EMIにおけるコモンモードノイズとディファレンシャルモードノイズ
伝導EMIを解析およびモデル化する場合、DMノイズとCMノイズを別々に解析することが重要です。
図2は、DMおよびCMノイズの経路を示しています。ここで、LFは入力フィルタのインダクタンス、CFは入力フィルタのコンデンサです。CPはスイッチノードからの浮遊容量、CPOは、評価ボードのグランドから試験基準のグランドまでの浮遊容量です。

図2 : 降圧回路のDMとCMの経路
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ディファレンシャルモード (DM) ノイズ
置換定理を使用してDMノイズを計算できます。この定理は、任意の分岐間での電圧または電流をさまざまな要素に置き換えて、同じ電圧と電流を生成できるということを述べています。図3は、回路内のすべてのスイッチ (図2のS1とS2) を電流源または電圧源 (図3のIS1とVS2) に置き換えた後の降圧コンバータ回路を示しています。このシナリオでは、分岐等価後、回路の電流と電圧は変化しません。

図3 : 置換定理を用いたDMノイズのモデリング解析
重ね合わせの定理を使用して、EMIに対する各電源の影響を分析します (図4参照)。これにより2つの回路が作られます。1つ目は電流源 (IS1)、2つ目は電圧源 (VS2) です。LISNを通過する電流のみがEMIを生成するため、EMIノイズを生成しないソースは無視できます。これは、電流源を備えた回路だけを解析すれば良いということです。

図4 : 重ね合わせの定理によるモデリング解析
図5にDMノイズモデルを示します。このモデルは、DMノイズの原因がハイサイドスイッチ電流 (IS1) であることを示しています。図5の回路を分析すると、適切な入力コンデンサと入力フィルタインダクタ (それぞれ、CFとLF) を選択することでDMノイズ電流を低減できます。

図5 : 降圧コンバータのDMノイズモデル
コモンモード (CM) ノイズ
図6は、置換定理と重ね合わせの定理を使用してCMノイズを同様に解析する方法を示しています。このシナリオでは、CMノイズの発生源は、電圧源 (VS2) として機能するローサイドスイッチです (図6参照)。CMノイズはPCBグランドプレーンを介して結合されるため、CPとCPOも追加する必要があります。CPは、スイッチノードプレーンとグランドプレーンによって生成される寄生容量であり、スイッチングノイズを結合します。また、CPOは、出力電圧プレーンとグランドプレーンによって生じる寄生容量で、出力電圧リップルが結合する可能性があります。

図6 : 置換と重ね合わせの定理を用いたCMノイズのモデリング解析
図7に、降圧回路のCMノイズモデルを示します。CMノイズの場合、入力コンデンサと出力コンデンサのインピーダンス (それぞれ、CINとCOUT) はCPとCPOよりもはるかに小さく、解析時には短絡回路と見なすことができます。CMノイズは、より低い値のCPを選択することで低減できます。これは、スイッチノードのサイズを削減して、CPコンデンサをできるだけ小さくすることの重要性を強調しています。

図7 : 降圧コンバータのCMノイズモデル
この解析方法は、昇圧コンバータや昇降圧コンバータなどの他の非絶縁コンバータにも適用できます。
受動素子
上記のセクションでは基本的なEMIモデルを作成しましたが、設計者は高周波 (たとえば30MHzを超える) のEMIを正確に予測するために、各部品の寄生パラメータの影響を考慮する必要があります。
図8は、スイッチング電源のPCBに一般的に見られるEMIを発生する受動素子を示しています。

図8 : 一般的なEMI受動素子
図9は、コンデンサの高インピーダンスモデルを示しています。コンデンサを流れる電流はコンデンサの周囲に磁場を生成し、コネクタ内の導電性材料は小さな寄生抵抗のように機能します。

図9 : コンデンサの高周波等価モデル
図10は、インダクタの高周波インピーダンスモデルで、インダクタの巻線間に生成される電界が等価コンデンサを形成し、導体の加熱によって生じる電力損失は、直列および並列の寄生抵抗として扱うことができることを示しています。

図10 : インダクタの高周波等価モデル
通常、EMIノイズを決定するために使用できる寄生パラメータはサプライヤーから提供されるはずですが、この情報が含まれていない場合は、インピーダンスアナライザまたはネットワークアナライザで測定できます。
受動素子のインピーダンスプロファイルを見ると、インピーダンスの変化は三角形の形状になります (図11参照)。非常に高い周波数では、コンデンサの寄生インダクタによってインピーダンスが上昇するため、コンデンサは誘導性の動作を示します。インダクタでは逆のことが起こり、寄生容量と抵抗がインピーダンスの主成分になります。スイッチングコンバータでは、回路内の電流と電圧の急激な変化によって生じる高周波成分が発生します。特定の高周波数では、設計者は、使用している部品が予想とは異なる応答をする可能性があることを考慮する必要があります。

図11 : インダクタとコンデンサの周波数インピーダンプロファイル
さらに、高周波EMIを解析する場合、PCBの配線によって生成されるインダクタンスは無視できず、EMIモデリング時にも考慮する必要があります。インピーダンスアナライザまたはネットワークアナライザは、EMI成分を測定し、PCB上の浮遊パラメータを抽出できます。ただし、一般的な設計ルールとして、特にノイズの多い配線やノイズの影響を受けやすい配線はできるだけ短くすることを推奨します。
EMI部品とPCB浮遊パラメータを分析した後、図2のモデルをシミュレーションできます (図12参照)。スイッチの電圧と電流は、実際の測定によって取得できます。また、シミュレーションでスイッチ、またはICのモデルを使用してシミュレーションすることもできます。

図12 : シミュレーションソフトウェアを使用したEMI予測
図13は、EMI部品とPCBインピーダンスを正確に抽出すると、EMIシミュレーションでコンバータの伝導EMIの結果を正確に予測できることを示しています。

図13 : EMIシミュレーションの結果と実測値の比較
結論
本稿では、EMIノイズを解析し、伝導EMI (DMノイズおよびCMノイズ) のモデリング方法を作成する方法と、例として降圧コンバータおよび昇降圧コンバータを使いながら説明しました。パートIIでは放射EMIについて説明します。MPSは、幅広い非絶縁型スイッチングコンバータとコントローラ、および絶縁型コンバータを提供し、お客様のアプリケーションのニーズを満たします。
MPSは、EMC試験所に加え、厳しいEMI要件も満たす車載グレードの昇降圧コンバータと降圧コンバータも提供しています。
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