コールドクランクからロードダンプへ : 自動車の過渡電流入門

役立つ情報を毎月お届けします

購読する

プライバシーを尊重します

はじめに

自動車技術の進歩により、典型的な自動車システムにおける運転経験及び安全性を改善するために必要とされる精巧な電子回路の数が劇的に増加しました。新型車は、高解像度ディスプレイ、強化されたユーザーインタフェース、および多数の接続オプションを備えたインフォテインメントシステムを提供します。向上した安全機能には、衝突回避のためのLiDARや、運転者認識のための複数のカメラとセンサが含まれます。これらの電子モジュールの多くは12Vまたは24Vバッテリシステムに接続されているため、過酷で動的な過渡環境にさらされます。これらの状態は、電源設計者が極限環境において信頼性の高い回路動作を保証するための課題になっています。

図1は、代表的なカーエレクトロニクスシステムを示します。自動車用バッテリシステムの代表的な負荷には、インフォテインメントシステム、ADAS、デジタルコックピット、ライティング、電子制御モジュール (ECU)、およびCANバスが含まれます。

図1 : 代表的なカーエレクトロニクスシステム

従来の自動車電源における過渡電流は、オルタネータによって発生する厳しい高エネルギー過渡電流から、点火システムによって発生する低レベルのノイズまで幅があります。本稿では,一般的な自動車過渡状態 (逆バッテリ、コールドクランク、ウォームクランク、ロードダンプなど) を紹介し、これらの過電流の原因とシステム設計上の課題について説明します。

コールドクランク

寒冷な気候条件下では、自動車のバッテリとエンジンの両方が極端な低温にさらされる可能性があります。コールドクランクのパルスは、スタータが高電流を流してコールドエンジンを始動した後、バッテリ電圧が低下したときに発生します。コールドクランク条件下では、バッテリ電圧は15ms〜50msの間で3Vを下回ることがあります (最悪の条件)。

この期間の後、バッテリ電圧は約6Vまで上昇し、数秒間そのままで、数ミリ秒で上昇して公称電圧に戻ります。図2に低温における代表的なコールドクランク条件下でのバッテリ電圧プロファイルを示します。ISO 7637-2規格の、Test Pulse4は、このタイプの始動プロファイルの詳細を規定しています。

図2 : 一般的なコールドクランクパルス

標準的な条件下では、バッテリの始動プロファイルは、自動車メーカー間で非常に類似しています。電圧レベルとタイミングに関しては、OEMメーカー間でばらつきがあります。

OEMの仕様によっては、低周波正弦波はスタータープロファイルパルスに含まれる場合もあります。正弦波 (例 : 2Hz) は、クランク中のオルタネータのノイズを表します。ISO 16750-2規格は、注入された正弦波を使用していくつかの始動プロファイルについて記述しており、OEM仕様で参照される場合があります。この波形は、厳しいコールドクランクパルスと呼ばれる場合がよくあります (図3参照)。

図3 : 厳しいコールドクランクパルス

コールドクランクシステムの課題

コールドクランク始動条件の間、電源ソリューションは、2.8 Vの低い入力に対して、短時間に、連続的で安定した出力調整が行われる必要があります。幅の広いVINをもつコンバータ(例 : MPQ8875A-AEC1などのDC/DC降圧 / 昇圧コンバータ)は、低入力電圧に対応するために使用可能です。

ウォームクランク

ウォームクランクパルスは、スタータが暖かいエンジンを始動するために高電流を流し、バッテリ電圧が低下すると発生します。ウォームクランクパルスはコールドクランクパルスと非常に類似していますが、電圧降下および短くなったパルス幅は、通常、それほど深刻ではありません。ISO 16750-2およびISO 7637-2の Test Pulse 4にも、ウォームクランクの始動プロファイルについて記述されています。

ウォームクランクパルスの間、バッテリ電圧は5Vまたは6Vまで低下し、電圧降下時間はコールドクランクの場合より短いことが多くあります。約5msの短い持続時間の後、バッテリ電圧は約8Vまで上昇し、1秒足らずそのままで、公称電圧に戻ります。図4にウォームクランク条件下でのバッテリ電圧プロファイルを示します。

図4 : 代表的なウォームクランクパルス

このパルスのバッテリ電圧プロファイルは、自動車メーカーで非常に類似していますが、電圧レベルとタイミングはOEMメーカーによって異なります。ウォームクランクパルス状態の例は、自動車の始動と停止状態で、ブレーキをかけて完全に停止すると、エンジンはシャットダウンし、次いでブレーキペダルから足を離すと再起動します。

ウォームクランクシステムの課題

多くの車両は、ウォームクランクのような条件下でも、特定の機能が動作し続けることが求められます。たとえば、暖かいエンジンが再起動したときに、カーラジオの音楽再生が突然停止したり、LCDディスプレイパネルがちらついたり、映像が劣化してはいけません。このような低入力電圧条件に対応するには、MPQ8875A-AEC1など、VINの幅が広いDC/DC昇圧コンバータまたは昇降圧コンバータの使用が推奨されます。

逆電圧

逆電圧 (または逆バッテリ) 状態は、車両のバッテリがシステムから切断され、バッテリの極性が逆になった状態で誤って再接続したときに発生します。これにより、入力電源コネクタ間に負の電圧が発生し、電源およびその他の回路に損傷を与える可能性があります。多くのICは、わずか数百ミリボルトの負電圧 (例えば-0.3V) にしか対応しておらず、他の部品は極性に敏感な場合があります。この状態から回路を保護するために、通常、逆保護ダイオードまたはMOSFETが使用されます。

図5は、ECUが誤ってバッテリに接続された状態を示しています。最初は、14Vバッテリは正しく接続されていますが、その後切断されます。バッテリがECUに再接続されると、バッテリの極性が逆になり、ECUは-14Vになります。ISOおよびOEMテストでは、負電圧を印加する時間が定義されていて、この時間は60秒より長くなる場合があります。逆保護回路によっては、過電流による破損を防止するためにヒューズを使用する場合が多くあります。逆電圧を所定のテスト時間だけ印加した後、正しい極性電圧を再び印加して、モジュールが正常に動作していることを確認する必要があります。

図5 : 逆バッテリ状態

逆電圧システムの課題

すべてのICおよび部品を負電圧または逆電圧から保護することは極めて重要です。これらの条件にさらされると、部品が著しく劣化または損傷する可能性があります。これらの保護には、ダイオードやMOSFETなどのデバイスの使用が推奨されます。MPQ5850-AEC1のようなスマートダイオードコントローラも代表的なダイオードやMOSFET保護回路に関連付く電力損失を大きく低減し、逆入力への保護を提供します。

ロードダンプ

ロードダンプの過渡電流とはオルタネータが他の電子負荷に接続されている間にバッテリが切断された場合に発生する電圧サージのことです (図6参照)。ロードダンプは、車両の走行中にバッテリが誤って切断された場合に発生する可能性があります。一般的な例としては、バッテリ端子の腐食、接続不良、バッテリケーブルの劣化などがあります。

図6 : ロードダンプ状態

サージのピーク電圧は100Vを超えることがあり、サージが減衰するまでに最大400 msかかります。ISO 16750-2およびISO 7637-2のTest Pulse 5aおよび5bは、通常、特定のロードダンプの過渡パルスに対して参照されます。これらの規格はそれぞれ、2種類のロードダンプ過渡電流を記述しています。

1. 抑制なし : 高電圧ロードダンプの過渡サージは、バッテリが切断され、オルタネータがシステムに電力を供給している間に発生し、クランプされない波形になります (図7参照)。この場合、オルタネータは、内部クランプまたは抑制手段をもっていないので、オルタネータに接続されたモジュールおよびデバイスは、この大きな過渡電流にさらされます。

図7 : 抑制されないロードダンプパルス

2. 抑制あり : 負荷ダンプ過渡サージが発生したとき、波形はオルタネータの整流器中のアバランシェダイオードによって抑制されます。この結果、クランプされた波形になります (図8参照)。このシナリオでは、オルタネータ内のクランプ保護は、ほとんどの12Vシステムにおけるより低い電圧 (通常は32Vと40V間) への過渡電流を抑制します。

図8 : 抑制されたロードダンプパルス

ロードダンプシステムの課題

回路は、損傷や劣化なしにロードダンプに耐えなければなりません。ロードダンプ状態から保護するために、TVSダイオードまたはその他の入力保護の使用を推奨します。抑制されたロードダンプの場合、回路に必要なクランプ保護は、40 Vと45 Vの間の定格が必要なだけです。この場合、MPQ4316-AEC1などの幅広いVIN降圧コンバータを使用してシステム要件を満たすことができます。抑制されていないロードダンプでは、クランプ保護はより高い定格が必要です。そのため、より大規模で費用のかかるソリューションが必要になる場合があります。

まとめ

表1は、一般的な業界テスト基準を含む、この記事で説明した自動車の過渡電流およびパルス条件の概要を示しています。また、システム設計者が考慮しなければならないシステムの課題にも焦点を当てています。

表1 : 自動車入力過渡現象、共通標準、およびシステムの課題

テスト 発生元 / 出来事 参照規格 システムの課題
逆極性 バッテリ端子を外すと、車のバッテリ接続が誤って逆になることがある。 ISO 16750-2:2010(E) 4.7項 逆電圧 ICおよび受動素子を保護するためには、追加保護 (例 : ダイオードおよびMOSFET) が必要になる。
コールドクランク 内燃機関のスタータ・モータ回路への通電によるバッテリ電圧の低下低温条件下でエンジンを始動させるために、スタータが大電流を引き込むときに発生する。 ISO 16750-2:2010(E) 4.6.3項開始プロファイル ISO 7637 -2 – 5.6.4項 Test Pulse 4 VINが短期間低い間、VOUTが連続的で安定していることを確認する。VINレンジの広いDC/DCコンバータが推奨される。
ウォームクランク 内燃機関のスタータ・モータ回路への通電によるバッテリ電圧の低下コールドクランクと同様だが、エンジンが暖かいため、電圧降下と持続時間はそれほど極端ではない。 ISO 16750-2:2010(E) 4.6.3項 始動プロファイル ISO 7637 -2 – 5.6.4項 Test Pulse 4 VINが短期間低い電圧の間VOUTが連続的で安定していることを確認する。VIN レンジの広いDC/DCコンバータが推奨される。
ロードダンプ オルタネータが充電電流を発生している間に放電されたバッテリが切断されると、他の負荷がオルタネータ回路に残る可能性がある。 ISO 16750-2:2010(E) 4.6.4項 ロードダンプ ISO 7637 -2 – 5.6.5項 Test Pulses 5a、5b バッテリに接続された回路は、損傷や劣化を生じることなく、過渡電流に耐えなければならない。一般的には、TVSダイオード、クランプ回路、幅広いVINのDC/DCコンバータが必要とされる。

結論

一般的な自動車のモジュールは、この記事で説明した過渡電流のほとんどまたはすべてに対処する必要があります。これらの重要な自動車の過渡電流を基本的に理解することは、自動車のシステムエンジニアが堅牢なソリューションを設計するために必要です。

極端な条件に対して信頼性の高い電源回路を設計することは難しい場合がありますが、MPQ4316-AEC1 (広いVINを持つ降圧コンバータ)、MPQ8875A-AEC1 (広いVINを持つ昇降圧コンバータ)、MPQ5850-AEC1 (42Vスマートダイオードコントローラ) MPQ7200-AEC1 (広いVINを持つLEDドライバ) などの、堅牢な自動車用部品は動的な環境にも対応できるため、優れたパフォーマンスと安全性を提供します。

本稿で取り上げた内容の詳細については、MPSのWebサイトにある無料のウェビナー"「コールドクランクからロードダンプまで-自動車の過渡電流入門」をご参照ください。

_______________________

興味のある内容でしたか? お役に立つ情報をメールでお届けします。今すぐ登録を!